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ミレイユ・アノイアの特記
国宝、ルーの槍。
それをミレイユ・アノイアが見たのは三年前の継承戦争以来。
かの第三皇子を直接磔刑にしたその真紅の三ツ又槍を、久しく見たのであった。
実父は【ロンバルディア第一皇子】。
先代皇帝、フェリチアーノ・ロレンツォの嫡子。
父名はフェリクス・ロレンツォ。
母名をカテリーナ・アノイア。
生まれはポルドワーブこそ、そこでは屈指の名門貴族であり、あの【七撰高位貴族】にすら選ばれている門家である。
国策での結婚に対し、母は別に反対しなかったらしい。
叱られない範囲で聞いた、満足そうに応えたので、王族に嫁ぐこと事態が最早、あのグループ《【七撰高位貴族】》の、ミッションであり、当たり前なのだろう。
そのため、《中には手段を選ばない聖女、淑女の化けの皮を被った飛んでもないヒロイン気取りの子達がいるのも、また事実だった。》
幸いなことに、そんなゴタゴタには巻き込まれなくて、ロンバルディア第4皇女として、王妃となるべくレッスンや、ロンバルディアでは滅多に使い手がいないことから、選んだことで進むべき指針ともなった白魔法の勉強に、精力を注いだ。
何もかも、「女だから」と、表舞台に立たせてくれない祖父のフェリチアーノ皇帝。
ミレイユの父、第一皇子ことフェリクス王太子。そしてフェリチアーノ皇帝のもう一人息子であり、王太子の弟、""ゼオン第二皇子""。
この三人が当時のロンバルディアの全てを殆んど仕切っていた。
というより、《【ゼオン第二皇子があれこれお願いすると、皇帝がそれに答え、出来ないと兄である父が二人して祖父に力を見せつける、もしくはゼオン第二皇子の願いに、【即位がまだなのを""逆手""にとり、父のフェリクス】が、【『フェリチアーノ皇帝』】名義で国の舵を切るいう様を】》、""普通に""、見て育った。
表では暴君と言われている皇帝が実は裏では、ネルキメデス現皇帝の父と叔父の操り人形だったわけである。
そして、母は、それを見ても何も反応が無かった。
わかっていたのか、そうでないのか。
《【王家を離れた身としては判るはずもない】》。
彼女の弟は、ネルキメデス・ロレンツォ。
サード・ロレンツォ。
ミレイユ・アノイアはれっきとした《【ロンバルディアの王家の血を分けていた行方不明とされているロンバルディア第四皇女】》。
その彼女に、好きな人ができた。
12歳だった。縁談がもうそろそろ来ると思っていた矢先、まさかの自分からの一目惚れ。
その頃、家族間はと言うと何かにつけて兄を罵倒しないと気が済まない叔父、我が子であるはずの、兄と弟を比べては兄ですら無理難題に近い古代高等魔法教育を叩き込む。
何とか応えようとする兄はみるみる、魔力が減っていくのが分かった。
父と叔父、更に、""信じられないことに""皇帝すら兄に対して、執拗なほどに何時死んでもおかしくない、動物以下、下手をすれば半人以下の扱いをしていた。
それなのに、発狂したのは、父の方からだった。
確か、兄にも立派な忠臣がいた。
その力量はレックレス・アヴァロンと対等に張り合うことも。
その忠臣が、無策で兄をないがしろにはしない。
それほど兄に対して、忠誠心を見せていた。
事実。
彼女が知る限り、継承戦争後に、戦犯として断罪の日にて兄と共に【磔刑】にされている。
オーギュストが手にした真紅の槍を見て、確信した。
二人は、確実に【生きている】。
何故ならその槍、《付属魔法》が答えだから。
あの「""二人には効かない魔法""」だから。
それを、伝える必要がある、と思ってオーギュストを見て、ギョッとした。
彼の方が顔も酷く青ざめて、投げ放った手を押さえ、全身を小刻みに震わせていた。
「オッ………オーギュスト様!?オーギュスト様ッ!!!しっかりしてくださいませ!!」
ミレイユは叫ぶと同時に、崩れ落ちる彼を見て、初恋の彼を支えるしか、もう既に、頭の中には無かった。
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