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奴隷部隊長、ジニア
オルフェリアとアルザスを結ぶ商業航路。
商業航路、と言っても通常の人間やジニアのようにエルフと呼ばれる亜種人類も常時なら通行可能だ。
だが、今は少し事情が違う。
人形師が持ち込んだ、オルフェリア前皇帝キカ・ミクリアに対する反感感情は実に効果的だった。
実際、ジニア自身もアルザスからオルフェリアに売られた。
元々アルザスでは低種族として扱われていた彼にとって、異国の地であるオルフェリアに売り飛ばされたところで、夢希望もなかった。
アルザスは宗教国家とだけあって聖職者の権力が強い。
特に、”アイネスの代理人”と俗称される教皇の権利は国家随一だ。
その一声が国家を動かすとも言われる教皇の座に即位したのがパリエル4世。
その彼が浄化作戦として発布した、先住民への弾圧と異端、異教徒狩り。
その作戦の中でジニア達エルフは、耳が長いという特徴と、先住民という観点により元いた場所を一気に追われた。
都のルネから大移動の最中、誘拐なのか、移動者の数が朝と夕で変わっているー夕のほうが少ないという状況ー事もあったが、誰もそんな事を気にしてはいられなかった。
それほどルネからスラム街への移動は過酷を極めた。
長命と言われる彼らでも十分な飲食、休息がなければ、あっという間に命を落とす。
「長命とは不死ではない」
遠い過去、長老がジニアに話した一声が頭をよぎった。
長命故に長い飢えとの戦いはエルフを淘汰するのに十分だった。
こんな国、とっと出て行きたい。
ジニアは大移動での飢えに苦しみながらの最中、そう思った。
そしてそれはあっさりと、叶ってしまった。
飢えに耐えかねたところ荷車に積まれていた食料、しかもアルザスでは貧乏人の主食と言われるジャガイモ類。
それと引き換えに移動のエルフに目をつけた異国の商人が指名したのは、ジニア含む十数人のエルフ。
ジャガイモ1つで十数人のエルフは明らかに価値が合わないだろう。
それでも残される幼子、それを養う親達からすれば、十分に成長したエルフ達を食べさせる余裕なんか無い。
皆わかっている。
今のアルザス国内は明らかにおかしい。それぐらい、分かっている。
だから非難の声は出ない。
ジャガイモ芋と交換で国外に合法的に出国できるのなら、乗らない者はいなかった。
それからジニア達はオルフェリアに飛ばされた。
自分は幸運だとジニアは自分で自身を労う。
運ばれる途中もいい環境ではなかった。
粗末な食事を巡って同胞同士が奪い合いを始め、好事家に追いかけられ、体力も精神も崩壊して自決を決めようとするエルフを何人も止めた。
中には止めた後にも決行を強行した者もいたが、それほどまでに彼等は追い込まれていた。
ジニアが目的地だと言われたオルフェリアまで精神がもったのは、理由がある。
ダークエルフに異国の話を聞かせると、決めていたから。
彼女はジニアの初恋の相手だった。
踊りが大好きで、魔法が使えるダークエルフ。
彼女が売られなかった事実もまた、ジニアの正気を保つことができた。
それからジニアはオルフェリア到着後、今度はオルフェリア国内の人身競売にかけられ、買われた。
俗称で亜人種と言われる自分を買った、その人物の名を聞いてジニアは耳を疑った。
オルフェリア皇帝、ラグナ・ミクリア。
後に即位する、キカ・ミクリアの父である。
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