ミクリア家とエルドラ家

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ミクリア家とエルドラ家

「陛下ーーー!陛下!………どこいった、あんの!!」 ジニアが奴隷商人によってオルフェリアに運ばれた同時間、オルフェリアの都、カナーンに居城を構える皇帝の住まいに響き渡る男の声。 その主は自分の主人が己を呼んだから、謁見の間に行った。 が、居なかった。 皇帝という主人がいないとなると、本来なら大騒ぎである。 なら。 だが、今回の話は少し。 ジニア、キカ、そして渦中のマージャル・エルドラ。 この3人に関わりを者はごく僅か。 その一人が、の忠臣、である。 アラビアンチックな城の中をまたか、という周囲の顔を己の一身に受けながらも、己の主人を探している男。 名を、ディーン・エルドラという。 実力主義を謳うオルフェリアでは商人の護衛兵として軍事の成長にも力を入れているが、ディーンの場合はそのが突出しすぎていた。 彼もそれを自覚しているので、宮廷内で自分がこんなに不機嫌に主を探し回っても、周囲は何も言わない。 むしろ、自分が歩くだけで周囲から陰口が飛ぶことぐらい慣れている。 自分に向いている些細な声を、毎日気にしていたら、皇帝の忠臣はもたない。 それほど彼にとって、はどうでも良かった。 むしろ、彼の最重要項目はだった。 「はぁ……見つからない…となると。」 両手を組んで、軽く握り拳を作り右手の人差し指をこめかみに当てる。 ディーンが何か物事を考えている時の仕草だ。 「か。」 掛け声もなく、城外に繋がる窓枠に手をかけ、そのまま身を乗り出す。 本来ならここで悲鳴が幾つか上がるだろうが、周囲は特に目立った反応がない。 ディーンはそのまま、己の両手がかかる場所を見つけて、勢いそのままに窓から上へを体を引き上げた。 これだけでも十分なほどに非常識な振る舞いといえる。 何せ半球場の屋根に向かって己の肉体ひとつで登頂ークライミングと呼ばれる崖上りの技術ーを人目も憚る事なく実行しているのだから。 そのままディーンは己の主人がいるであろういつもの場所、宮廷内に密かに存在する隠し部屋にこうして、侵入したのだった。 そして、見つけた。 自分を呼んでおいて来なかった、主人の姿がそこにあった。 「陛下!……、おい、このどれだけ探し回ったと思ってるんだ!!」 のらくら野郎、と呼ばれてその部屋の中で大の字になって寝転がっている男が、上体を起こす。 金色の髪は強いクセでうねりが有る。 褐色肌には己が皇帝の戴冠式の前日に、、古代イザレア国土文字をモチーフにしたというタトゥー(刺青)を両上腕と胸筋にかけて余す事なく掘られたその上体には、何も着ていなかった。 両眼は翡翠色が見える。 当時の皇帝、ラグナ・ミクリア。 戴冠式直後から、まるで臣下を揶揄うかの様に呼びつけてはこの隠し部屋にいる、なんて事が良くある。 この隠し部屋はラグナがこの宮殿の建築士にお願いをして増築した、と本人から直接ディーンは聞いている。 その隠し部屋を知る者はラグナとディーン、作った建築士だけ。 建築士は数年前に亡くなっているため、この部屋を知るのは実質二人のみ。 皇帝、ラグナはしばらく起きた後呆けていたが、目が覚めた様だ。 「あー?あー……、わりぃ。確かに呼んだんだったわ、っつって。」 うーんと伸びをするラグナ。 その間にディーンがした事は、ため息を吐く事だった。
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