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 拘束衣を着けるレベルで暴れ回る姿は想像できない、と思いかけた所で別荘の一件を思い出した。またあんな風に暴れだしたら俺ここに住めなくなるな。万が一のことを考えて茜に次の物件探してもらおうかな。いやいやいや、三十五億五千万だぞ。物件なんて選び放題じゃないか。まあまだこの筋肉ダルマにどれくらいの費用がかかるのかわからないからな。念には念を入れて。  なんて考えているとタカラがまたクロメダカの水槽に指を突っ込んだ。「だからやめろって」と俺が声を上げるとタカラが「この子のうんち取れなーい」と言い出した。俺は水槽に顔を近付けた。 「待てよこれって」  俺は水槽を置いているラックの下段から鳩サブレーの缶を出して蓋を開けた。網とピンセットを出し風呂場から桶を持ってきた。蓋が壊れたピッチャーに汲み置きしておいた水を桶に流し網でクロメダカを掬った。桶に移しメダカの身体を軽く押さえてピンセットで黒く細長い物体を抜き取った。 「何やってるの?」そわそわした様子のタカラが訊ねた。 「イカリムシが寄生してた」 「大丈夫?」 「わからない」  俺は瓶に塩水を作ってイカリムシの抜けたクロメダカを入れた。タカラはそれを心配そうに眺めた。俺は一度水槽を洗った。作業の間タカラは何度も「この子大丈夫?」と訊いてきたのでこちらも何度も「わからない」と答えた。  幸い徒歩圏内に金魚の専門店がある。俺はタカラを置いて店に駆け込み薬剤を買ってきた。その間タカラは俺がアパートを出る時と同じ姿勢でずっと塩浴をしているクロメダカを見ていた。
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