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 人が死ぬのは一大イベントだ。危篤状態から盛り上がり始めて訃報が伝えられた瞬間ピークに達する。通夜でいよいよクライマックスを迎え火葬が終わると少しずつ終息する。  菱沼宗一郎代表取締役社長の葬儀は家族と近親者のみでしめやかに営まれますと回答しているのにマスコミはしつこい。ネットニュースにその一言だけ載せれば良いものを。おかげで広報部所属の俺は二日間寝られていない。イライラする。  しかも上司が突然社長の別荘の片付けを手伝いに行って欲しいと言ってきた。俺広報部だぞ。てか三時間前に同僚の岸が行ったじゃねえかよ。岸は俺より五歳若い上に身体もデカい。高校時代ラグビー部に所属していて花園に行ったとか何とか。「俺が秒で片付ける」などと息巻いて出ていったがまだ終わらないのか。俺は皺ひとつないピシッとした作業服を着て東京駅から横須賀線に乗った。  空調設備が完璧に整ったオフィスにいたために外の気温に気が付かなかったが、意外と暑い。自宅アパートの窓際に置いた水槽が気にかかった。水温が高くなりすぎると死んでしまう。他の容器に移したクロメダカの卵は孵化しただろうか。ああ、帰りたい。
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