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 流石に風呂場を覗くことはしなかったが、タカラをハイエースで運んできたスーツ男の言う通りひとりで身体を洗うことはできるようだ。こういう所は他の生体に比べてだいぶ楽だ。なんでも自分でやってくれる。ヒト型の飼育も悪くない、と思えた。まあ、そういうお世話も含めて何かを飼うっていうのは楽しいもんなんだけど。  タカラの次に俺が風呂に入ったのだが、その間も彼は水槽を見ていたようだった。タオルを首に掛けて正座していた。俺はタカラの首のタオルを取って頭をワシャワシャ拭いた。タカラの頭がグラグラ揺れた。バイオノイドといえど風邪は引くだろう。こいつが寝込んだりしたら仕事にも差し支える。髪の水分がだいぶなくなったタカラが「この子たちケンカしてる?」とミナミヌマエビの水槽を指差した。見ると一匹のエビがもう一匹の背中に乗っている。俺は「交尾だな」と答えてから「社長の所にエビいなかったん」と首を傾げた。 「エビちゃんはいなかったなあ」 「へえ」  エビも動きが可愛くて見ていると結構楽しいんだけどな。そこでふと、いたずら心が沸いた。飼い猫のふぐりを触ってみたくなるのと同じ感覚だ。俺は「ザリガニの交尾見たことある?」と訊いた。 「ない」と首を横に振るタカラ。俺はスマートフォンで画像を検索して見せた。
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