タカラ君は社長の宝物でした。

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　菱沼社長も生き物が好きだった。大企業長南ケミカルの子会社、長南生命科学研究所出身の天才。自宅マンションには数々のエキゾチックアニマルが飼育されていたという。俺も長南ケミカルの最終面接で社長になる前の菱沼氏と少しだけ話した。俺が生き物が好きでずっとペットショップのアルバイトをしていたために就職活動が遅れたことを話したら笑いながら「わかるよ。私も生き物をたくさん飼っているから」と言ってくれた。

　菱沼社長の飼っていた生き物達は引き取り先が見つかったのだろうか。俺が名乗りを上げたいくらいだが、温度管理が必要な生き物だと光熱費が馬鹿にならない。ミナミヌマエビとクロメダカ、それに水槽のお掃除用のヒメタニシで手一杯だ。

　そんなことを考えながら電車とバスを乗り継いで葉山の別荘に行った。木々に囲まれた緑豊かな土地に広い庭、デカい一軒家。夜じゃなければ相模湾を望める絶好の立地だ。インターホンを鳴らしたが反応がなく、仕方がないので鍵の掛かっていないドアを開けた。

　玄関の先にホールが見えた。少しぐにゃっと曲がった階段がある。他の部屋に続くいくつかのドアは全開で、そこからは数人の社員が顔を覗かせていた。床には倒れる男達。ぐしゃっと丸まった玄関マットの傍には身体のデカい男が立っていた。