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遠出するつもりもなかったのでサンダルを足に引っ掛けてアパートを出たが、テンテン君は「おかげ庵に行くぞ!」とやけに元気な声で言い放った。市営バスに乗ってみなとみらいまで行った。
テンテン君は抹茶モンブランとブレンドコーヒーを注文しそれらを交互に口に入れてご満悦の様子だった。俺もとりあえずコーヒーを啜った。
「平津君はどこの出身なんだい」
「横須賀だけど」
「じゃあ君はおかげ庵に行ける幸せを理解できないんだろうね」
「何言ってんだおまえ」俺はコーヒーを一口飲んで「で、話って?」と訊ねた。
「タカラを研究所に返してもらいたい」
なんだ、そういうことか。「返せって言うなら返すけど」と俺は答える。「じいじがいないと手が付けられないんじゃないのか」
「その通りだ」
「それに、俺は所長から直々に、まあ直接会ったわけじゃないけど、頼まれてこういうことになってるんだぞ。どういう風の吹き回しか説明が欲しいな」
テンテン君は躊躇うように一口モンブランを食べてから「これは僕の独断だ」と白状した。「所長はこのまま平津君に社長の代わりを務めてもらいたいと思っている。でも僕の考えは違う。これでは平津君の死後また同じことを繰り返すだろう」
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