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 長南生命科学研究所のそもそもの思惑は、ヒトの群れに馴染むヒトの形をした、ヒトより強い生命体を造ることだった。例えば災害の現場で活躍するような、凶暴化する野生動物に生身でも対応できるような、そんな存在だ。その試作モデルとして生まれたタカラはフィジカル面では申し分ないスコアを叩き出していた。  だが、彼はヒトを信頼することができなかった。生まれ持った性質か幼少期のトラウマか、それは判明していない。とにかく、いざ身体の準備が整ったという段階で心が付いてこなかったのだ。彼はヒトなんかよりはよっぽど別の生き物の方が好きで、ヒトへの警戒心が薄いが危険は孕んでいるアーバンベアなどには全く手を出せなかった。確かに、ヒトはバタバタ倒していくのにメダカやエビには優しかったもんな、と俺は納得した。  そこで菱沼社長が考えたのが、社長自らがタカラを引き取り世話をすることだった。社長の生き物好きは社内外問わず有名な話で、彼がタカラを愛玩動物として扱うということはもうタカラに期待されていたことは実現しないのだろう、と世間は解釈した。要するに、タカラを隠居させるのだと周りは思っていたのだ。 「だが社長は諦めていなかった」と困ったような表情でテンテン君が頭を掻いた。「社長は、ヒトを好きになれなくてもヒトの役に立つことはできると思っていた」 「俺も人間よりは淡水魚の方が好きだけど普通に働けてるしな」
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