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 テンテン君のスマートフォンに映し出されているのは山梨県にある長南ケミカルの保養所だ。存在は知っていたが利用したことはなかった。 「ペット休暇もあるんだろ。僕が予約しておくから」 「うん」と俺は上の空で答えた。山梨か。興味はある。ランドマークタワーを出て帆船日本丸を左手に見ながら歩いているとテンテン君が「僕の故郷にも海があるんだ。おかげ庵はないけどね」とどこか切ない表情で言った。本当に、何なんだこいつは。  その日の夜、夢というか、過去の記憶の再放送というか、そんな感じの現象が起こった。長南ケミカルのオフィスにある小さな会議室。パイプ椅子に座る俺の前には長机と会社の偉い人が数人面接官として席についていた。その中には後の社長である菱沼さんもいる。 「専門学校の後に大学に行ったんだね。そのあとはしばらくバイトか。長いことやってたんだね。なんで?」  履歴書に目を通しながら面接官のひとりが訊ねた。俺は少し考えてから答えた。 「アルバイトが楽しかったからです」 「じゃあバイト続けてれば良かったんじゃないの」 「いい加減定職に就きたいなと思って。そうじゃなかったらずっとペットショップにいたと思います」
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