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 ははは、と笑ったのは菱沼さんだ。「わかるよ。私も生き物をたくさん飼っているから」と言った。「子どもの頃は動物園の飼育員になりたくてねえ、でもああいう仕事は動物が好きなだけじゃ駄目なんだ。人が好きじゃないと。動物だけが友達、っていう人はなれないんだよ」  他の面接官が苦笑する。なんで今そんな話を、と言いたげだ。その空気を感じているのかいないのか、菱沼さんは続けた。 「私は人間嫌いだから。飼育員にはなれないなあって思って諦めたんだ」 「わかります。僕も人間なんかよりよっぽどメダカの方が好きです」俺は菱沼さんを見る。「でも、人間が嫌いでも理解して歩み寄ることはできると思います。そうすれば人間のためになる仕事ができる。僕はそう思いながらバイトしてました」  菱沼さんは「そうだ。その通りだね」と笑った。  目を覚ました俺は思わず「なーにカッコつけてんだか」と呟いた。恥ずかしい。あんなこと言うんじゃなかった。  外はまだ暗い。身体を起こすと床に敷いた布団でタカラが眠っていた。スヤスヤと穏やかな寝息が聞こえる。びんぼリウムのエアレーションの安っぽいモーター音も手伝ってどこか心地良い空気が漂っていた。
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