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「平津」と呼ばれて初めて足元に転がる岸の存在に気が付いた。俺はその場にしゃがみこんで「どうした」と訊ねた。 「平津、おまえは早く逃げろ」 「あれ、でも別荘の片付けって」 「片付けらんねえよこんなんじゃ」 「これどういう状況?」  岸が答える声を遮るように、雄叫びと共にどこかの部屋から男が飛び出した。佇む筋肉ダルマはそいつを低い姿勢で出迎え肩で身体を受け止めると投げ飛ばすように床に転がした。呻き声の後男は動かなくなった。  子どものラグビーを見たことはあるだろうか。成長が早く体格の良い男の子が小柄な相手チームをものともせずに突進していく。子ども時代の身体の成長の差はエグい。ほとんど相手にならない。そんな様子に似た光景が目の前に広がっていた。大人と大人でこんなにもフィジカルの差を見せつけられるもんなのか。  それから次々と勝負を挑む男達。もれなく筋肉ダルマに倒され床に転がる。人事部の柔道経験者も企画部の元レスリング部員も、どこから持ってきたのか高そうな壺を武器にして振り上げた総務部期待のホープも彼にやられた。 「あいつ片付ければ終わるんだ」と憎々しそうに岸が呟く。 「あの筋肉ダルマ?」 「あれバイオノイドだ」 「生命研の?」
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