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「吸虫も生きるのに必死だったんだよ。あと人間も」俺は言ってタカラの隣にしゃがみ込んだ。「今回は人間の圧倒的な力で中間宿主のミヤイリガイが犠牲になったけど、日本住血吸虫が完全勝利するオチもあったんだと思うよ。どれがハピエンだったかは俺にはわからないけど」  それから俺はタカラを見遣り「タカラはヒト嫌い?」と訊いてみた。タカラは答えずに悲しそうな顔をした。 「俺は好きじゃないよ。多分前世ミヤイリガイだったんじゃないかって。俺らのことぶっ殺しておきながら供養とか、おまえらがそれで気持ちに整理つけたいだけだろって」それから俺は頭を掻いた。「これは人類の永遠の宿題だよ。絶滅するまで一生悩んでろってミヤイリガイが突き付けてるんだなって、俺は思ってる」  命は平等だ。ヒトも貝類も吸虫も生き残るのに一生懸命だ。それ故に正解などない。タカラはクロメダカのことを思い出したのか、「イカリムシちゃんも生きようとしてたんだね」と呟いた。  杉浦醫院を出た後は「如何にも山梨らしい所」にも立ち寄ってみようと鳥もつ煮を提供する蕎麦屋に行った。ざる蕎麦を啜りながら鳥もつ煮をつついた。茶色くツヤツヤしているモツと卵はしっかりと煮込まれていて、濃厚な味がして美味い。タカラは砂肝をぱくりと口に入れてから「ミヤイリガイちゃん可哀想だった」と話し始めた。 「でも大事な人がちほーびょーで死んじゃったらタカラもミヤイリガイちゃんのこと嫌いになるかもしれない」
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