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 こうして別荘の“片付け”を終えた俺達は翌日休みを貰った。日中は窓際の水槽を眺めてぼんやりと過ごした。ひとつの水槽は黒メダカ、もうひとつの水槽にはミナミヌマエビ。どちらにもヒメタニシが入っている。エアレーションの音が心地良い。照明はホームセンターで購入した安いLEDライトだ。名付けて貧乏アクアリウム。略してびんぼリウム。俺の身の丈にピッタリな趣味だ。水槽に張り付いたヒメタニシがコケを食べる様子は割と可愛く、メダカやミナミヌマエビの卵が孵化するとやはり嬉しい。男の言う「癒やしが欲しい」は大概セックスのことを指すが、このびんぼリウムは正真正銘俺の癒やしだ。セックスに飢えた野郎共も一度メダカでも飼ってみれば良いと思う。  夕方になって我に返った。家族と会う約束をしていたのを思い出した。シャツとスラックスを引っ張り出しまともな人間らしい格好に着替えてからアパートを出た。横浜のホテルにあるレストランの前で妹が待っていた。名前は平津茜。クラシックバレエを習っていて背筋がピンとしている。岸と同い年で不動産関係の仕事をしている。最近マンションを買うとか、買ったとか、そんな話をしていた。
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