俺の生き様

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栗原美友は、長い眠りから覚めた。 愛する彼がいない。 ここは何処だろう。 何故私は、此処にいるの。 不安な気持ちを拭ってくれる、優しいかれ。 自分は何にもしてやれない、なんて悲しいことを口にする。 その実、美友は彼に助けられてきた。 そんな彼がいない。 ゆうくん、と小さく呟く。 優しい眼差しは、現れない。 体を動かす。 ベッドの上。 管に繋がれた身体。 なんで………? 何もわからない。 必死に思い出そうとするけれど、脳が拒否しているようだ。 いやだ、こわい。 ゆうくん、ゆうくん…… 「ゆう、や……」 なんでこんなに不安になるんだろう。 彼は、きっと来てくれる。 そう思うのに、嫌な予感は止まらない。 「あ!栗原さん。目が覚めましたか?」 良かった、と言う看護師さん。 その顔は、本当に嬉しそう。 「良かった。ほんとうに。3か月目が覚めなかったから心配してたんです」 さん、かげつ…… 美友の脳裏に、ひとりの男。 「いや!殺さないで!!ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」 「どうした!?」 錯乱状態になった声が響いていた。 回診中だった医師が飛んでくる。 「す、すみません……」 看護師の言葉に、医師は察した。 「いや。それより、安定剤を持って来てくれ」 「はい!」 ------------数分後。 美友は、落ち着いてきた。 「大丈夫ですか?」 「はい、すみません」 彼がいないことが、彼女を混乱させる。 忘れたい記憶が、呼び起こさせたことも。 「……あの、悠哉……悠哉は何処ですか」 幼稚園から一緒にいた。 家が近所で一緒に遊んでいるうちに、話を静かに聴いてくれる彼に安心感を覚えた。 困ったことがあると、相談に乗ってくれた。 優しく微笑んで、いつも側にいてくれる彼に恋心を抱いた。 『好き』 『ありがとう。俺も好きだよ』 優しい眼差しで、穏やかな声で彼が言う。 付き合ってからも、変わることなく大切にしてくれた。 盛り上がるタイプではなかったけれど、それでもずっと一緒に居たいと心から願っていた。 ……あの日まで。 結婚を約束し、式について色々決めていたある日。 ディナーのデートに、彼が遅れた。 『すぐ行くから、ごめん』 『いいよ。大丈夫。慌てないでね』 人通りの多い繁華街。 待ち合わせ場所で、彼女は軟派された。 やんわり断った瞬間、男は拳銃を取り出した。 一斉に逃げ出す人々。 助けてくれる人は誰もいない。 腰が抜けた彼女の腹を、男は殴った。 拳銃はあくまで脅しだろう。 彼女は、それでも男を睨みつけた。 黙って負けるなんて、彼女のプライドが許さなかった。 『何だよ、その目』 『私には、好きな人がいます。あなたには屈しません』 何度も殴られた。 蹴られた。 ゆうくん。 彼は来ない。 『カレシは来ないなぁ?』 ゆうくん………。 怖いよ、助けて。 『美友!!!』 遠くから彼の声が聞こえた。 逃げ出す男。 美友の意識は、そこで途切れた。 そして、起きても彼はいなかった。 彼を信じてる。 だけど、ずっと不安が抜けない。 「…………彼は、」 言い出しにくそうに医師が横を向く。 「彼は…………今日。あなたが目覚める前に……」
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