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パン、と軽く鋭い音が、周囲に重々しく響いた。
滴り落ちる血。
やられた利き手。
「裏社会で有名なアンタも、利き手がダメになったらお終いだな」
嘲る声。
「バカだろ、アンタ」
言って、銃身を左手に持ち替える。
「名を馳せるってのは、そんなに簡単じゃねえよ」
「な、」
パン、と愛銃が音を立てる。
「俺に喧嘩を売ったのが運の尽きだな。ま、もう聞こえてないか」
俺を殺りたきゃ、頭狙うんだったな。
防弾チョッキを着てなかったのも、アンタのミスだ。
息絶えた男に、俺は背を向ける。
名を馳せるのは、なんて格好付けたことを言いはしたが、別にナンバーワンの称号を貰いたかった訳じゃない。
殺しのナンバーワンなんて、不名誉な称号、本当はもらいたくもなかった。
俺は、普通に生きていたかった。
喧嘩しながらも、仲良く家族と暮らしていければ良かった。
その日常から手を離したのは、俺自身だけれど。
月明かりの中、歩く。
寂れた商店街。
物悲しさが到来する。
煙草に火をつけた。
いつも吸い込む煙、変わらない味。
そのはずなのに、どうしてか今日は美味くない。
「……ハァ」
溜息ひとつ。
今日は、どうも気分が良くない。
止血の処置をした右手が痛む。
父さんと母さんに悪いとは思う。
けど、止まれない。
「みゆ……」
物想いに耽るなんて。
本当に今日はどうかしている。
自室に戻り、処置をする。
弾は、俺の腕を貫通していたらしい。
取り出す手間が省けて助かった。
前、右手を撃たれた時は弾を取り出す処置が大変だったからな。
処置が終わり、横になる。
彼女は、どうしているだろうか。
意識が戻ったと嬉しい報告はない。
「美友………」
お前の敵は見つからないよ。
俺は……どうしたらいいんだろうな。
こんなに、汚れた手でお前を抱きしめることなんかできない。
ごめんな、美友。
不器用な男で、ごめん。
分かってはいるんだ。
だけど、このやり方しか分からなかった。
俺には、この方法しか思いつかなかった。
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