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「信長様。お初お目にかかります。暁悠哉と申します」
普段敬語は使わない。
今は会社員じゃないし、接客するわけでもない。
ただ、淡々と任務を遂行するだけだ。
それでも、目上の人に敬意を持って接することは忘れていない。
信長サマは、頭を下げる俺を物珍しげに見ているようだ。
顔を上げなくても、見られていることくらい分かる。
しかし、別に悪い印象を持たれている感じはしない。
「ほう」
スタスタ歩いてくる音。
俺は顔をまだ上げない。
「悠哉とか言ったか。おまえ、これは何だ?」
服の袖を引っ張られた。
此処にきて、2日目以降は善左衛門が服を貸してくれていた。
しかし、今日は現代の服。
信長に会うには、こっちの方がいいと踏んだのだ。
「はい。西洋から伝わった『洋服』でございます」
「ほう。洋服……」
楽しげに笑う声が、聞こえる。
「はい。他にも、面白いものがございます。……殿は、火縄銃をご存知とうかがってますが、もっと小ぶりの銃も私どもの世界にはございまして」
懐に手を入れ、銃を取り出す。
どよめきが、俺の耳に痛い。
大丈夫だよ、あんたたちの大将を撃とうってわけじゃない。
俺は、愛銃をそっと床に置く。
「取り扱いにはご注意を。そちらは、火縄銃より手軽で、………簡単に人を殺せます故」
「お主、どういうつもりで……!」
秀吉サンが立ち上がる。
「ご安心ください。何かあった時の守りです。あなたたちの主君を撃とうだなんて、そんなことは思っておりません」
「のう。これは、ワシも使っていいのか?」
弾は五発ある。
俺が、数ヶ月前に男を撃った一発を除いた五発。
「ええ。この時代にはそぐわない代物です。私は使うことないので……是非、どうぞ」
「ほう」
「しかし、……口出しして申し訳ありません。人を撃つことはご遠慮いただければ……。的をご用意ください」
「お主、無礼だぞ」
「信長様のご意向を聞かずに、口出しなど」
どんだけ信長サマが怖いんだよ。
「よい。この男は、無駄な殺生はしない質なのだろう。そうだな?」
ほら、話せば分かってくれるんだよ。
人って心の繋がりだろ。
まあ、さっきからしっかりと俺を見定めていたからかもしれないけど。
そうじゃなきゃ、試し撃ちの的は俺だったかもしれない。
だけど、死を覚悟で来てるんだ。
今更、怯えはない。
「はい」
「使い方を教えよ。よいな?」
「かしこまりました」
「もう、顔を上げよ。悠哉、と言ったか。おまえは本当に面白い。気に入ったぞ」
「光栄でございます」
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