俺の生き様

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運び込まれてきた男は、血塗れだった。 担当した医師は、彼の顔を見て息を飲んだ。 よく、この病院に通っていたからだ。 患者である栗原美友の彼氏だ。 確か、名前は暁悠哉といった。 右腕からは、血が大量に溢れ出ていた。 止血しようとしたのだろう、巻いてあるタオルの元の色が判別できない。 タオルを外せば、弾丸の跡が痛々しくうつった。 病院に彼女を見舞いに来ていた彼が、最近姿を見せなくなった。 毎日来て、彼女の手を握っていた彼。 待合室のテレビを見て、歯噛みしているのを見たことがある。 ちょうど、昼のニュースが婦女暴行を伝えていた時だ。 彼女と重なったのか、怒りに満ちた表情でテレビを睨みつけていた。 治安がいいと日本はよく評価される。 だが、毎日のように不穏なニュースは流れるのだ。 それを見るたびに、彼は苦しい思いを噛み潰そうとしてきたのだろう。 やるせなかった。 『先生。美友をよろしくお願いします』 そんな彼が、ある日から姿を消した。 その言葉だけを残して。 「栗原さん。暁さんは、今日も来ませんね。さみしいでしょう?きっとまたすぐ来ますからね」 呼びかけても、反応がない。 彼が消えた理由が分からないが、彼女を捨てて逃げるような男ではない。 それは、今までの姿を見ていればわかった。 彼女を愛しているから、許せない気持ちが勝ったのだろう。 しかし、無鉄砲にもほどがある。 弾痕を処置しながら、医師は溜息を吐くのをこらえるしかなかった。 こんなこと、彼女は望んでいませんよ。 そして、自分も望んでいません。 せめて、病室を一緒にしてやりたいが、それは叶わなかった。 彼は、重症で手術をしたかった。 意識がなく、呼吸は浅い。 「彼の家族に連絡したい。連絡先は分かるかな?」 本当なら、警察沙汰だろう。 しかし、警察を呼んだら彼は捕まってしまう。 本来、こんなリスキーな仕事をしている患者は放って置けず、警察に連絡を入れる。 だが、何故か彼を庇いたい気持ちが芽生えてしまった。 警察呼ばずに済むなら、それがいいと思ってしまった。 「頑張って調べます」 どうやっても、調べたかった。 「先生!ありました。暁さんの自宅電話が……」 生真面目な彼は、携帯電話番号以外に、自宅番号も書いていた。 彼女の意識が戻ったら、連絡してください 彼の声が脳内リフレインして、医師はクラクラした。 「すみません。暁悠哉さんのご自宅でしょうか」 電話口に出た、女性が息を呑む。 「はい。暁悠哉の母です。しかし、息子とは関わりはもうありませんが……」 「え?」 「あの、警察ですよね?あの子は……もう私たちとは絶縁していまして」 ああ。 本当に、彼は…… 全て終わらせるつもりなんだ。 自分でケジメをつけるつもりで…….。 「いえ。病院です。実は……手術をしないとご子息が大変なことになりまして」
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