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「おい、起きろ」
何だよ、まだ寝かせてくれ。
「おい」
「うるせーな」
目を瞬かせて、起き上がる。
なんだか、身体中が痛い。
「おお、起きたか」
髷に少し薄汚れた着物。
腰に日本刀。
笑う男は、そんないで立ちだった。
「は?」
夢か。
しかし。
寝転んでいた草の匂い。
商業人が行き交う声。
やたらとリアルだ。
「おい、此処はどこだ」
「なんだ、寝ぼけておるのか?ここは、尾張だ」
尾張。
戦国時代の愛知県の呼び名だ。
いまも、尾張地方はあるけれど、そういうニュアンスではないことが分かる。
「……なあ、殿様って織田信長じゃ……」
「無礼だぞ。聞いていたのが俺だったから良かったものの……。そうだ。うつけ者と言われる織田家長男の信長様だ」
アンタも大概酷いだろう、とは思ったが口には出さないでおく。
「それよりお前、その着物は何だ」
ベタな質問に、笑ってしまう。
本当に聞かれるんだな。
漫画や映画の中だけかと思った。
「俺、未来から来たんだよ。これは、洋服っていうんだ。着物は滅多に着ない」
「着物を着ないで、そのようなものを着るのか……」
まあ、驚きだよな。
俺だって、未だこの状況が信じられない。
「なあ、悪い。煙草吸わせてもらうぜ」
「たばこ……?」
「ああ。これだ」
内ポケットから、煙草とライターを取り出す。
煙草を口に咥えて、左手で火をつける。
右手は、まだ動かせない。
紫煙を吐き出せば、男が目を丸くしている。
「実際に目にしたことはないが、葉巻と似たようなものか?」
葉巻はこの時代からだったのか。
知らなかった。
「ああ、葉巻も俺が住む時代にあるけどな。主流はこの煙草だ」
「葉巻は高級品だと聞くが……凄いんだな。お前」
まあ、煙草税で確かに一時期よりかなり値上がりしてるからな。
そういう意味では、嗜好品というより高級品か。
「凄いのかは分からねぇけどな。……しかし、これからどうするか」
「俺の家に来るといい。大した飯は出せないがな」
「世話になっていいのか?」
「ああ。その、たばこってヤツを吸わせてくれたらな」
なんだ、面白いヤツだな。
「もちろん。俺は、暁悠哉。よろしくな」
「俺は、田辺善左衛門だ。よろしく頼む、ゆうや」
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