俺の生き様

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差し出された手を握る。 「ほら、煙草だ。煙を肺いっぱいに吸い込むんだよ」 善左衛門に煙草を渡す。 火をつけてやると、善左衛門は怖々といった様子で口に運んだ。 すうー、と息を吸い込み……。 「けほ、」 善左衛門は咽せた。 「悠哉、これは刺激が強いな」 「ああ、まあ初めはみんなそうだな」 「慣れか……」 どことなく、感慨深げに呟く善左衛門。 俺は、そうそう、と言って笑う。 「ま、吸わないならそれに越したことはない。肺に良くないからな」 「ふむ……」 善左衛門は、長いままの煙草を見つめる。 「しかし、勿体ないからな。これはお目にかかれないから」 言って、また吸い込む。 「大事にしてくれるのは有り難いけどな。無理するなよ」 「ああ。優しいな、悠哉は」 いや、優しいのは善左衛門だろう。 出会えたのが、善左衛門で良かった。 俺も、一服する。 今も昔も変わらず、賑わっているまち。 草に寝転んで、煙草を吸うのも悪くない。 まちの喧騒と裏腹に、まったりと流れる時間が、なんだか切なくなった。 と、そこにひとりの男がやってきた。 「おお、そこにいるのは善左衛門か?」 楽しげに、善右衛門に話しかける。 俺は、ぼんやり流れる雲を見つめていた。 「ああ。久しいな」 一緒に寝転んでいた善左衛門が起き上がる。 「ん?お主、それは何を持っておる?見かけぬものだが」 「これか?この男がくれたのよ。タバコって名前なんだ。苦いがな、なんだか悪くはない」 「ほう。タバコとな」 「葉巻の一種らしい」 「ほう。興味深いものだ。葉巻は太いと噂だったがなあ。これは随分と細いのう」 眼差しを感じる。 やれやれ。 俺はヘビースモーカーではない。 だけど、日に三本は必ず吸いたい。 いつまでいるのか分からないこの状況で、タバコは貴重なんだけどな。 これが夢なら…… いや、わかっている。 これは夢じゃない。 大体、俺は眠りが浅いタイプだ。 こんなに長い夢を見ることはない。 「アンタも吸うか?」 差し出せば、善左衛門と同様に、恐々受け取った。 「俺は、暁悠哉。よろしく」 「ああ、よろしく」 その男は、一太と名乗った。 知り合いは多い方がやりやすいだろう。 俺は、少し笑う。 ずっと一人でやって来たのにな。 面白くなってしまった。 久しぶりの感情。 何があって、此処に来たのかはわからない。 でも、どうせなら楽しんでやろうと思った。
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