俺の生き様

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「いや、実際にはあわせることは出来ないけれどな。そう思っただけだ」 「冗談か。……しかし、この町は賑わっているな」 こんなに賑やかなのか。 現代の光と違う。 太陽光や、月明かりといった自然の光。 陽が差し始める頃に起き、月が照る頃に眠る。 みんな活気にあふれている。 一人一人が、会話を楽しんでいる。 あちらで話が始まると、こちらでも会話が弾けている。 みんな冗談を言い合い、楽しんでいる。 その会話の明るさが、町を賑わせているのだろう。 「冗談を言い合えるのは、いいコトだ」 「悠哉がいたところは違うのか?」 「そうだな。閉鎖的な環境だ」 ひとりの時間が悪いわけではない。 ひとりになる時間も大切だ。 しかし、会話がない家も少なくない。 近所の人と話すことも少なくなり、なにかあればすぐにコンプライアンスだと騒ぐ。 娯楽はコンプライアンスの名のもとにつまらなくなり、共通の話題で盛り上がることも少ない。 がんじがらめに縛った結果、俺たちが生きる時代は窮屈になっていった。 セクシーなもの、グロテスクなものには蓋をして。 女性を下に見るなと騒ぐ。 言い分が分からないものもあれば、正当な意見のものもある。 ただ、何でも行き過ぎて、法律が厳しくなりすぎて楽しみを奪われる。 歌を歌って、みんなに聞いてもらおうとすると、法律違反と言われる。 インターネット上では、自分の思ったことを書けば偽善者と言われる。 正しいひとが、正しいことを言えなくなる。 行き場をなくした、吐き出す場所をなくした人々が、誰にも自分の感情を知られないまま命を絶つ。 何で相談しないんだ、と気づかなかった自分を棚に上げて周りは言う。 吐き出せない環境を作って追い込むのは、自分たちなのに。 誰かが倒れれば、もの珍し気にカメラを回す。 だってみんながしているから、を免罪符に。 それはイジメも同じだ。 周りがしているからしている。 自分だけが何で責められるの、なんて検討違いのことを言う。 悪いことをしたから謝る、ということはしない。 そこに、自分の意思はない。 みんなと同じにしていたら、安心だから。 みんなと違うことをしていたら、自分が標的になるから。 ただそれだけ。 みんなと同じ、で立ち上がるのがこの時代。 みんなと同じ、で陰気なことするのが未来。 色々と変わっていく中で、人の気持ちは変わる。 変わってはいけない部分まで、変わってしまった。 「閉鎖的………」 「そうだ。負の感情が先行する。故に、無駄な暴力が増えていくんだ。言葉でもそうだけどな」 「言葉が暴力になるのか?」 「ああ。刃物そのものだ。血が流れるわけではないから、みんな気づかない」 みんな自分がないんだ。 「一本気なやつらがいないんだな」 「ああ。いないな」 そう、一本気な奴はいない。 この時代風にいうならば、【武士道】がない、ということになるのか。 「時代が進むと、見たことないものが増える。それを羨ましいとおもっていたが……」 「ないものねだりなんだよな。俺は、こっちの暮らしが羨ましいよ」 規制が全くないわけじゃない。 それでも、みんな和気藹々としている。 うたをうたう人もいれば、楽しく話に興じる人もいる。 その話も、人の悪口より、暮らしを良くしようとみんなで話し合う。 領地の取り合いで、暮らしは楽とは言えないと善左衛門は言うが、戦争で暮らしが苦しいのは今も変わらない。 色々な国が戦争に巻き込まれて、大量殺戮を繰り返す。 テレビのニュースは、税金増額だ戦争だ物価高だといいことがない。 芸能ニュースだってそうだ。 週刊記者に追い回されてプライベートを暴露される。 やれコンプライアンスだ、やれハラスメントだと騒ぐくせに、だ。 休息がなく、疲れた表情の芸能関係者が無理に笑顔を作ってブラウン管の向こうにいる。 芸能事務所のお偉いさんが起こした不祥事で、その事務所に所属している人々が、心ない中傷を受ける。 腐っていると思うが、擁護すれば袋叩きにされる。 結果として、中傷をしている側が正義と認識されるそんな世の中。 みんなで護り戦うなんて、現代の人々には考えも及ばない。 そんな覇気もない。 ないものねだり、などと言いはしたが、善左衛門だって現代の風習をよしとはしないだろう。
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