僕の罪と君の記憶

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 母親は親友なんだから、理由なんていらないでしょ、と無責任なことを言うが、諒さんは病院で一度会っただけで、いまの俺からしたら知り合い以下といってもいいくらいだ。  悩む俺に、母親は少女趣味な紙袋にじゃがいもを詰めて、もっていけ、と命令した。 *  諒さんが電話をするためにリビングを出たあと、俺はぼんやりと諒さんの部屋を眺めた。生活感のない部屋で、さっき諒さんが脱ぎ捨てたコートとマフラー、それからダッシュボードの上に置かれた鍵だけが唯一人の住んでいる気配を感じさせた。  鍵にはナポレオン絵画を模したキーホルダーのようなものが付いている。廊下にも絵が飾られていた。諒さんが中学高校と俺と同じ美術部に入っていたというから、彼もやはり絵が好きなんだろうか。  そんなことも、俺は知らない。  母親が言うには、ここに俺は入り浸っていたそうだが、なにを見ても、記憶が戻ることはない。それに、諒さんの対応も不思議だ。  親友だった、とまわりの人間は言うが、諒さんの反応は「知り合い」といったところだろうか。  俺はまわりから聞く「諒さんと俺」と、俺が見た「諒さんと俺」のあまりの違いに戸惑う。
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