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何か、何かあるのだろう。
記憶がなくなる前の俺と、諒さんには、ふたりにしかわからない何かがあったんだ。
そして、それを知るのが怖い。
「俺、諒さんのストーカーだったのかなぁ」
俺の気持ちが一方通行で、諒さんは迷惑に思っていたのかもしれない。
それを思い出してしまうのが怖い。
俺はぐっとコーヒーを飲みほした。苦いその飲み物のことは好きではない。しかし、諒さんが勧めてくるのだから、記憶を無くす前の俺は好きだったのかもしれない。
なにもかも憶測だ。俺は憶測でしか俺がわからない。
ゆっくりと立ち上がった。この部屋にもういてはいけないと思った。
「諒さん、ごめんなさい、帰ります。コーヒーごちそうさまでした」
リビングのドアをあけると、廊下で立ち尽くしている諒さんと目が合った。
「どうしました?」
諒さんはこちらを見て、それから廊下に飾ってある絵を一枚指さした。
「この絵、どう思う?」
「……」
それは、大胆な緑を配色した絵だった。緑と、茶色、あとは白。ガラスの額縁に入れられている。
「木の抽象画ですか?」
俺の答えに、諒さんは苦笑した。
「はずれ」
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