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諒さんは僕の肩を叩いた。
「和也」
初めて名前を呼ばれて、俺はどきりとした。
「バイバイ。気を付けて帰るんだよ」
諒さんは、そう言ってなにか吹っ切れたような笑顔で僕を見送ってくれた。
*
何か、俺は大きな間違いをしたのかもしれない。俺は帰り道、諒さんのことばかり考えていた。
脳裏には諒さんの別れ際の笑顔がこびりついていた。たぶん、これはやはり推測なのだが、おそらく、諒さんはああいう風に笑う人ではないのだと思う。
スケッチブックの中の諒さんは、もっと憂いを帯びた、それでいて慈愛に満ちた笑みを浮かべている。
彼に何かあったのだろうが、それが何なのか、俺にはわからない。
わからないなら、もう諒さんの人生から、俺は退場した方がいいのかもしれない。
俺はふらふらと歩いた。この町の道はもうある程度覚えていた。通った小学校、中学校、高校。俺の記憶のピースが落ちているんではないかと、家族が俺を連れ歩いてくれたからだ。
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