僕の罪と君の記憶

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 ドアノブにゆっくりと手をかけて、ドアを開けると、そこにはモデルを中心にずらりと生徒が円形に並び、絵を描いていた。狭い教室に、イーゼルとキャンパスと彫刻と絵画と生徒が詰め込まれている。俺はその光景に圧倒されて、そして中心に一心不乱に動く筆の音に飲まれた。生徒は誰一人こちらを振りむかない。誰もがキャンパスの中の世界に没頭していた。   「どうしました?」  声を掛けてきてくれたのは高齢の男性だった。年季の入った前掛けは絵の具で汚れている。この教室の先生だと思った。 「あ、あの、俺」  何か言わなければ、と思ったが、不審すぎる自分の状況にふさわしい説明が出てこない。 「あれ、和也くん」 「え……」 「記憶喪失になったって聞いたけど、もうよくなったのかね?」  老人は低く、生徒たちの集中を乱さないように、小さな声で話した。 「あ……えっと、あの……」  老人は俺の戸惑い、驚いている顔を見ると、ふむ、と顎を一度掻いて、それから俺の背中を押した。 「おいで。君の特等席が空いているよ」  老人は俺を窓辺の席に座らせて、説明した。
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