僕の罪と君の記憶

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「君はここの生徒だったんだよ。ずっとね。そしてここは君の特等席だ。……おかえり、和也くん」 「……」  その席は、驚くほど自分に馴染んだ。 「親は、ここには連れてきてくれませんでした」  俺が言うと、老人は笑った。 「はは、内緒で通っていたんだよ。高校一年生の時かな? 絵を描く暇があるなら勉強しろと言われて辞めたのさ。それでも納得できない君はこっそりバイトをして、それでこっそり通ってくれていた。私と、君と、諒くんだけの秘密さ」 「……俺、悪い奴だったんですね」 「芸術を愛する、素晴らしい青年だ。どうだ、描いてみるかね? 好きなものをモチーフにして」 「でも……」 「教室の中に、好きなものはないかな?」  言われて、思わず教室を見渡す。そして、俺ははたと気が付いた。白いカーテンと、茶色い壁、窓向こうの緑。  喉が渇く。目がぐるぐるして、汗が噴き出た。 「俺、この教室の風景を抽象画にしたことありますか……」 「ああ、何度もね」  俺は顔を覆った。 ****(諒視点)  何もする気が起きなくて、ソファにだらしなく横たわっていた。ダイニングにはまだ和也が飲んだカップが置かれたままだ。
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