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「ばか! あほ!」
単調な悪口はやがて涙を含み、そしてついにその言葉が出た。
「……もっ、ぅ……、もう別れる!」
そしてそのままくるりと背を向けると、和也は部屋を飛び出していった。
僕は何が何だか分からないまま、和也を見送った。
その帰り道で、和也は信号を無視してきた車に跳ね飛ばされて頭を強く打ち、記憶を失ってしまった。そして、それ以来彼は別人になってしまったのだ。
それから三カ月の月日が流れた。
*
小雪の降る中、マンションの入り口に立っていた人影に僕は眉をひそめた。
「……」
僕は大学の帰りだった。いつもなら遅くとも18時には家に帰るのだが、今日は課題をしていたのでもう時計は20時を回って、すっかり日が暮れている。
マンションのエントランスから漏れる光と声だけで、僕は人影が知り合いであることを把握した。
「僕に用事?」
尋ねると、人影——和也はへらりと笑った。吐息が白い。
「これ、母さんからです」
和也が右手に持っていた紙袋を差し出す。中を覗くと、大ぶりのじゃがいもがごろごろと入っていた。
「……連絡してくれればよかったのに」
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