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和也の問いに、僕は首を振った。
「別にふつうかな。……退学するんだって?」
「ええ、まあ。勉強、わからないし」
「絵は?」
「絵?」
「君は絵が好きだったと思うけど」
「うーん……高校の頃に美術部に入ってたっていうのは母から聞いたんですけど、あんまり、覚えてないです」
「そう」
和也はゆっくりと唇をカップにつけた。黒い液体はぐるぐると彼の唇に吸い寄せられていく。
重苦しい空気がダイニングに流れる。
ふいに、スマホが鳴った。ポケットからそれを取り出すと、画面に父の名前が表示されている。
「ちょっと、ごめん」
「いえ、どうぞ」
リビングを出て、廊下で父と電話をした。用件は限定の雑誌を買っておいてほしいという内容だった。僕が了承すると、すぐに電話は切れた。
しかし、僕はリビングに戻る気になれなかった。
廊下には和也の絵が飾ってある。きっと、和也は覚えていないのだろう。
部屋にあれこれと飾るのが苦手だった僕の目を盗んで、和也が次々と飾っていったのだ。彼はこの廊下を自分の作品の展示場にするのだと息巻いていた。
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