僕の罪と君の記憶

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 俺は記憶を取り戻そうと、怪しげな民間療法を含めて必死にいろいろなことをしたが、どれも効果はなかった。記憶を失う前の俺が快活な性格で、美術が好きで、勉強はそこそこ、ということは友達や家族から聞いてわかったが、その情報が俺の記憶を呼び覚ますことはなかった。  ただ、ナポレオンの絵画のキーホルダーなど身の回りに美術に関連したものが多く残っていて、それらを見て絵の名前を言い当てることはできた。  部屋を整理していたら、昔俺が描いたのだという絵がいっぱい出てきた。スケッチブックだけで段ボールひと箱分もあるそれを、俺は一枚一枚ゆっくりと眺めた。 「あれ、これ」  途中、俺はあることに気が付いた。 「諒さん?」  昔の俺は特定の人物——諒さんばかり描いていた。  諒さんは病院に一度お見舞いに来てくれた人だ。中学、高校、大学と同じの同級生なのだと家族から聞いた。  高校生時代のアルバムをめくると、いつも彼が隣にいた。そうであるなら、俺が友達を描いていても不思議ではない。しかし。 「きれいだな」
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