僕の罪と君の記憶

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 小学生のころ、三年ほど絵画教室に通った。僕は絵を描くのは得意ではない。しかし、絵を習わせると子どもの集中力が鍛えられるという噂を聞いた母がやる気になってしまったのだ。  老夫婦が営んでいたその教室のことを、僕は好きにはなれなかったが、苦というほどでもなかった。筆がキャンバスの上を走る音はむしろ好きな方だ。しかし、その音だけを目的に飽き性な僕が三年も興味のない教室に通ったのではない。  窓辺の一番日光の入る席。そこが彼の指定席だった。彼は誰よりも早く来て、誰よりも真剣にキャンバスと向かい合っていた。  白い教室のカーテンと、茶色い壁。彼の黒髪、窓向こうの緑。  彼の瞳は真剣で、横顔は涼やかだった。そしてそのまま、彼の真剣な黒い澄んだ瞳は幼い僕の心に住み着いた。  ——僕は絵画教室で初恋をしたのだ。  そして幸運なことに、僕は17歳でこの初恋を実らせた。 「好きだ」  そう告げた時、彼——和也は目を丸くして、それから顔を真っ赤にして頷いてくれた。僕たちは絵画教室で出会って、僕が中学になって絵画教室を辞めたあとも、中学高校の美術部員として隣で筆をとり続けていた。
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