不義の澱

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 アルスカも自身の堕落をよく知っているだけに、フェクスの羞恥が痛いほどわかった。かつて、アルスカも故郷とこの国の懸け橋になると目を輝かせたが、ついに外交の仕事には就けなかった。いつかそのうちもう一度外交の仕事を探そうと思っているうちに、戦火によって故郷を失い、夢は夢のまま終わった。  しかし、アルスカはその羞恥に気づかないふりをした。彼は円滑な人間関係の構築を学んでいたのだ。 「へぇ、いい仕事じゃないか」  フェクスは肩をすくめた。 「いいもんか。手の付けられない連中のお守りだ。ところで、なぜこんな街に? 何も面白くない街なのに」 「実は、仕事を探しているんだ。軍で通訳を探していないか?」 「なんでまた」 「家を飛び出してきたんだ。いま、少しの金と、数着の服しか持ってない」 「はあ?」  アルスカは事の次第を語った。 「ケランと別れた。それで、家を出たんだ。この国に住むのは私の夢だったから、心機一転しようと思って」  フェクスは目を見開いた。 「なんで別れたんだ? あんなに仲良かったのに」 「ケランに浮気された」 「それくらい……」  フェクスの失言を遮って、アルスカは言い切った。
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