不義の澱

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「許せない。私たちは男同士で、子どもを望めないんだ。気持ちがないなら、一緒にいる理由がない。死ぬ気で働けばひとりで生きていくのには困らないさ」 「でも……」  まだ納得しないフェクスに、アルスカは哀れっぽい声を出して懇願した。 「頼むよ。私みたいな異邦人がこの国で仕事を得るためには、あなたの協力が必要不可欠なんだ」 *  アルスカとケランの出会いは今から16年前になる。2人はこの国の大学で知り合った。彼らは同じ留学生の身分であったが、その性質はずいぶん異なっていた。  アルスカは言語を学ぶ奨学留学生であった。奨学留学生とは成績優秀者のことである。彼らは学費の支払いを免除され、また生活費としていくばくかの金が支給される。彼らの多くが貧しい国の出身で、立身出世を目指してがむしゃらに机にかじりついていた。  一方、ケランは裕福なガラ国の金貸しの家の次男で、留学にかかる費用はすべて彼の親が支払っていた。彼は経済学を専攻していたが、勉学はそこそこにして、親の監視がない異国の地で酒を飲み、賭博場に出入りをして、ときには憲兵の世話になることもあった。
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