不義の澱

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「これから、東方もメルカも豊かになって、取り引きが増える。アルスカは俺の店で通訳として働けばいいじゃないか」  この言葉にアルスカは頷いた。外交官の夢を捨てても、ケランと共にいたかった。若い彼らは恋に燃え上がり、そのまま手と手をとってメルカ国を出でガラ国へ向かった。  その恋が鎮火した後のことなど考えもしなかった。 *****  アルスカはスープの匂いで目を覚ました。この感覚はいつぶりだろうか。彼は簡単に身支度をすると、1階へ下りた。  そこでの光景に、アルスカは心底驚いた。 「料理ができるとは、意外だ」  炊事場ではフェクスが軽快に野菜を切っていた。 「凝ったものは作れないぞ」 「手伝おう」  アルスカは腕まくりをした。  その日、食卓に並んだのは、パンとチーズ、野菜スープとベーコンエッグだった。不精な男2人の朝食には似つかわしくないほど豪勢だ。 「昨日はよく寝れたか?」  尋ねられて、アルスカは頷いた。 「ありがとう。悪いね、家に泊めてもらって」 「いい。どうせ部屋は余ってる。好きなだけいればいいさ」
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