不義の澱

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 アルスカは家から持ち出した金で家を借りるつもりだったのだが、フェクスによると、この街は異邦人に対して家を貸さないようになったのだという。そこで、フェクスの家の2階の空き部屋を借りることになったのだ。  アルスカは頭を下げた。 「ここまでしてくれるだなんて、なんと礼を言えばいいか……」  フェクスからは、予想外の言葉が返ってきた。 「礼はいい。……昔、お前が好きだった。……学生ってのは男所帯だから、一時の気の迷いだったかもしれんがな」  それを聞いて、アルスカは苦笑した。その言葉はアルスカにとって痛烈だ。アルスカはその一時の気の迷いで14年もガラ国で生活したのだ。そしてこの上ないほど苦しめられた。 「……気の迷いで済んでよかったな」  彼はこう返すので精一杯であった。  朝食のあと、フェクスはアルスカを連れて家を出た。アルスカは東方の言葉と、メルカ国の言葉、そしてガラ国の言葉を話すことができる。フェクスの考えでは、アルスカにできる仕事はたくさんあるはずであった。
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