不義の澱

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 ここ5年ほど、メルカは南方の国と戦争をしている。この国は東方のアルスカの故郷を焼き、さらに領土拡大を目指して進軍を続けていた。メルカ国はいま兵士が足りない。そこで、東方の難民を兵士に徴兵しようという動きが広がっている。軍では、難民を教育するための通訳を常に募集している。  また、北のガラは裕福な国であり、そちらとは交易が盛んだ。商会に行けば、通訳は食うに困らないはずである。  フェクスはいくつかの案を考えたあと、まずは彼の現在の職場である軍に顔を出すことを決めた。 *  軍所有の建物を出て、アルスカつぶやいた。 「よかった」 「すぐ決まったな」  隣を歩くフェクスも嬉しそうである。アルスカが無事に職を得たのだ。 「たぶん、死ぬほど忙しいぞ」 「それくらいの方がいい」  フェクスのからかいの言葉に、アルスカは真剣に返した。いま彼は没頭できる何かを求めているのだ。  アルスカの新しい職は翻訳事務官補佐である。  そのまま、各言語で送られてくる書類を翻訳する事務官を補佐する仕事だ。軍内の庶務を行う部署に配属されることになる。
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