不義の澱

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 アルスカは今日からでも勉強をはじめるつもりでこう言った。 「軍の専門用語が載ってる辞書はないだろうか」 「そんなのあるわけないだろ。実践あるのみだ」 「簡単に言うよ……」  彼らはそのまま市場へ向かって、いくつかの野菜と果物を買い求めた。  途中、アルスカが気が付いて尋ねた。 「ところで、あなたの仕事は? 今日は休み?」 「ああ、今日はいい。どうせ日雇いだ。働きたい日に行く」  アルスカは思った以上にフェクスの経済状況がよろしくないのを察した。 「……すまない。できるだけ早く一人で暮らせるようにするよ」 「気にしなくていい。部屋は余ってる。異邦人に家を貸す奴を見つけるのは大変だぞ。それより、いくらか家賃を入れてくれれば、そっちの方が助かる」  言われて、アルスカは頷いた。 「わかった。いくらだ? 手持ちで足りるなら、今日にでも払おう」 「今月は友情割引だ」  アルスカは眉を下げた。 「ありがとう」 「いいってことよ」  それから、アルスカは忙殺の日々を送った。
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