不義の澱

18/31

10人が本棚に入れています
本棚に追加
/31ページ
 アルスカは指の先を見て、顔をしかめた。しかし、相手が上官であるので、すぐに平静を装った。 「……まぁ、知らないこともないですがね」 「会ってきたらどうだ? お前、ちょっと根を詰め過ぎだ」  アルスカは嫌々ながら外に出て、その男に声を掛けた。 「なんでここに?」  アルスカの質問に、男は応えない。 「アルスカ、俺が悪かった」  そこに立っていたのは、もう二度と会うことがないと信じていたケランであった。  アルスカは首を振った。この悪夢が早く終わってほしいと思った。 「怒ってない。もう忘れた。帰ってくれ」 「話を聞いてくれ」 「聞きたくない。それが用件なら、もう帰ってくれ。私は怒ってないし、もう気にしてない。二度とここに来ないでくれ」  ケランはなおも食い下がる。 「誤解なんだ」  アルスカは急に腹立たしい気持ちになった。彼はこれまで悲しむばかりであったが、ここにきて忘れていた怒りがこみ上げ、止めることができなくなった。 「そうであることを願って、何回も確認して! 調べたんだ! 結果はこれだ! もういいだろう!?」  つられて、ケランも声を荒らげる。
/31ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加