不義の澱

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「こんな終わりでいいのか!? ちゃんと話そう! 俺たちは14年も一緒にいたんだぞ!?」 「14年もだまされてたんだ! あなたがそんな人間だなんて気が付かなかった!」 「だましてない!!」  2人は大声で怒鳴り合った。  もっと前、それこそ、アルスカの心が冷めてしまうより前にこうして喧嘩をしたならば、もしかしたら違う未来があったかもしれない。アルスカが泣いて、ケランがその涙をぬぐってくれたなら、またはじめからやり直すという選択肢をとったかもしれない。しかし、現実はそうならなかった。  アルスカはひとりでケランの裏切りを抱え込み、心が擦り切れてしまったのだ。裏切りを裏切りとして責め立てることができない関係しか築いてこなかったのは、アルスカにも責任がある。  だからこそ、傷つけ合わずに終わる道を選んだのだ。  2人は一通り大声を出したあと、肩で息をした。少しだけ頭が冷えた。  アルスカはいつの間にか流れていた涙を袖でぬぐった。 「あの相手の男はどうしたんだ?」 「別れた。遊びだったんだ」 「信じられない」  2人はどこまでも平行線だ。  ケランは弱った声で尋ねた。
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