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しかし、その不平等を叫んだところでどうしようもない。差別というのは差別される側ではなく、差別する側の問題なのだ。アルスカにどうにかできる性質のものではない。
「……しばらく、仕事は日が落ちる前に切り上げろ。俺も迎えに行くから」
憲兵に訴えに行った帰り道で、フェクスはそう言った。彼はアルスカの身を案じていた。いまはどこに行くにしてもアルスカとフェクスは一緒に出歩いている。これがアルスカひとりになったら、一体どうなるのかわからなかった。
しかし、アルスカは首を振った。
「それは申し訳ない。それに、そんなに早く仕事は終わることができない。いま、補佐官の中で私が一番翻訳が遅いんだ」
「命とどっちが大事だ」
アルスカは黙った。彼はどうするべきかわからなかった。安全を優先するならばこのままフェクスに送り迎えを頼むべきだ。しかし、いつまでも気のいい友人に迷惑をかけるわけにもいかないと思っていた。
また、最後がどうであったにせよ、14年も共に暮らしたケランが自分に対してそこまで無茶はしないだろうという驕りもあった。
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