不義の澱

23/31

10人が本棚に入れています
本棚に追加
/31ページ
 その日、アルスカはひとりで帰路についた。アルスカは朝から咳をしながら仕事をしていて、みかねた上官に帰宅するよう命じられたのだった。まだ日が高く、アルスカは油断していた。  道の真ん中に立ちふさがる人影がある。その人物の顔は逆光で見えない。それでも、アルスカは14年のつきあいでその人影がケランであるとわかった。 「あ……」  怒鳴りつけて追い払おうとしてしかし、声が出なかった。その人物は異様な雰囲気を発し、ゆらゆらと上体を揺らしている。  アルスカは無意識のうちに一歩後退した。  ケランは笑い出す。ケタケタとした無機質な声だ。アルスカの背中に汗が噴き出した。 「なんで、わかってくれないんだ」  そう言って、ケランは大きく一度揺れた。アルスカは嫌な予感がした。それは身の危険を伝える第六感のようなものなのだ。ようやくアルスカは叫んだ。 「こっちに来るな!」  このとき、アルスカはケランの右手に銀色の輝きを見た。
/31ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加