10人が本棚に入れています
本棚に追加
/31ページ
それがナイフであると気が付くより早く、アルスカはケランに背を向けて走り出していた。逃げなければならないと思った。脳内では警鐘が鳴り響いている。しかし、恐怖が足の動きを阻害する。
――間に合わない。
そう思った。アルスカはすべてが緩慢に見えた。世界はゆるやかに動き、ナイフを構えたケランの足音が大きく耳に響く。
アルスカは目をつむった。
そして次に目を開けた時、彼の目の前には返り血を浴びて呆然と立ち尽くすケランと、その足元に倒れ込むフェクスがいた。
フェクスはアルスカを迎えに来たところだった。そして、ナイフを持つケランを見て、アルスカを庇って飛び出したのだった。
アルスカは絶叫した。
*****
それから、フェクスは街の大きな病院に運ばれた。彼は腹部をナイフで刺され、大量に出血していた。
医者が手を尽くした甲斐あって、彼は一命は取り留めたものの、昏睡状態が続いた。
アルスカはフェクスの傍を離れなかった。
気のいい上官はアルスカに長期休暇を許した。
最初のコメントを投稿しよう!