不義の澱

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 それがナイフであると気が付くより早く、アルスカはケランに背を向けて走り出していた。逃げなければならないと思った。脳内では警鐘が鳴り響いている。しかし、恐怖が足の動きを阻害する。  ――間に合わない。  そう思った。アルスカはすべてが緩慢に見えた。世界はゆるやかに動き、ナイフを構えたケランの足音が大きく耳に響く。  アルスカは目をつむった。  そして次に目を開けた時、彼の目の前には返り血を浴びて呆然と立ち尽くすケランと、その足元に倒れ込むフェクスがいた。  フェクスはアルスカを迎えに来たところだった。そして、ナイフを持つケランを見て、アルスカを庇って飛び出したのだった。  アルスカは絶叫した。 *****  それから、フェクスは街の大きな病院に運ばれた。彼は腹部をナイフで刺され、大量に出血していた。  医者が手を尽くした甲斐あって、彼は一命は取り留めたものの、昏睡状態が続いた。  アルスカはフェクスの傍を離れなかった。  気のいい上官はアルスカに長期休暇を許した。
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