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アルスカは後悔していた。すべてはケランの不義から始まったことではあるが、アルスカは向き合うことから逃げた。これはアルスカの不義だ。ケランを壊してしまったのはほかでもない、アルスカなのだ。アルスカとケランはお互いに不義に不義を重ね、積もった澱がフェクスを襲った。
フェクスにとっては災難な話だ。
戦争で金も物資も食料も足りないというときに、異邦人が家に転がりこんで来ただけでなく、さらにその異邦人の元恋人に刺された。
どれほど謝罪をしても足りない。アルスカはフェクスの体を見つめて頭を掻きむしった。
アルスカは懸命に介抱した。ひと匙、水のような粥をすくってフェクスの唇に当てる。根気のいる重病人の看病を、彼は弱音ひとつ吐かずにやりつづけた。
そうして10日ほど経ったとき、フェクスの指がぴくりと動いた。アルスカはそれを見逃さず、フェクスに向かって呼びかけた。
「フェクス」
彼の声に応えるように、フェクスのまぶたがゆっくりと開いた。それを見て、アルスカの口からはまっさきに責める言葉が出た。
「無茶を……なんで……」
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