不義の澱

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 アルスカの声は途切れ途切れではあるが、フェクスは言わんとするところを理解した。  それから数日後、フェクスは起き上がれるほどに回復した。そこに至って、ようやくフェクスはアルスカの言葉に反論した。 「守って、悪いか。……好きなんだ、お前のことが」  アルスカは泣きたくなった。恋や愛を捨ててやって来たこの国で、愛を囁かれるとは思わなかった。 「気の迷いだな」  アルスカの言葉に、フェクスは笑った。 「そうだな。14年間会わなくても消えないくらい、強烈な気の迷いだ」 「……」  フェクスは片眉を跳ね上げて、おどけて見せた。 「ケランと別れたって聞いて、俺は喜んだんだ。最低だろ?」 「……そんなことは……」 「で? どうなんだ? 俺は命を懸けたんだが、お前の気は迷いそうか?」  アルスカは首を振った。 「そんな言い方は卑怯だ……」 「ああ、俺は卑怯だ。お前が異邦人で、立場が弱いのをいいことに、家に居候させて、あげくに罪悪感で縛ろうとしてる。……嫌ってくれていい。……異邦人に家を貸さないってのは嘘だ。お前は家を借りれるし、なんなら軍の宿舎もある」  アルスカはこの馬鹿な男を叱った。
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