不義の澱

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「もっとやり方があっただろう。死ぬところだったんだぞ」 「これしか口説き方を知らない。正攻法で口説いて、学生の頃にケラン相手に惨敗した。覚えてるか? 俺、お前に結構言い寄ってたんだぞ?」  2人は黙った。アルスカの気持ちを整理するには時間がかかる。フェクスもそれを理解している。彼は目を閉じた。待つのには慣れている。 *  フェクスが死にかけてからというもの、アルスカは献身的に彼を支えた。その原動力は罪悪感でもあったし、別の気持ちでもあった。アルスカはその気持ちに気づかないふりをしていた。  あのあと、逃げ出したケランは見知らぬ街で憲兵に捕縛された。ガラの地では金持ちの彼も、ここではただの異邦人だ。彼はメルカ人を害した罪で厳しい罰を受けることになる。  獄中から、ケランは何通もの手紙をアルスカに送った。しかし、アルスカはそれらを読まずに捨てた。もう二度と会うことのない人間に心を乱されたくないのだ。それでも、手紙を捨てた屑入れの中から嫌な気配がする気がして、アルスカを悩ませた。
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