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フェクスは立ち上がれるようになると、医者の忠告を無視して歩き回った。アルスカはフェクスを見張るので大忙しだ。そうして、次第に屑入れに投げ捨てた紙切れのことなど、すっかり忘れてしまった。
さらに、アルスカが仕事に復帰すると、ますますケランのことは過去のものになっていった。
そうして日常を取り戻していったある日、アルスカが料理をしていたら、後ろからフェクスが抱きついてきた。アルスカが振り向くと、フェクスは舌を出してこう言った。
「お前に任せてたら、いつになるか分からない」
アルスカはフェクスの言わんとするところを理解した。フェクスはぐっと腰を押し付け、そのそそり立ったものを慰めてくれと言外に求めている。
アルスカは驚いた。
「……な!」
「だって、嫌なら、出てくだろ。でも、いてくれる。それが答えだ」
満足げなフェクスに、アルスカは反論の言葉を持たない。彼は口をぱくぱくと開いたり閉じたりしたあと、耳まで赤くなって、俯いた。
「……自分でも、どうかしてると思う」
「俺もだ。この国では同性愛者は破門だ」
「……」
「そうなっても、いいと思ってる」
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