不義の澱

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 心はどこまでも晴れやかで、新しい生活への期待に溢れている。長く暮らしたこの家に愛着がないわけではなかったが、アルスカは異国の人間だ。もうここにいる理由はない。それに何より、彼は10代で故郷の東方を出て以来、根なし草だ。どこでも生きていけるという自信があった。  こうしてアルスカは旅に出た。目的地は彼が青年時代を過ごした隣国メルカの地である。そこで友人を頼るつもりだった。  彼は正気ではあったが、まだどこか夢見心地であった。この悪夢が終わり、かつてのまぶしい朝が来ることを願っている。しかし、それが叶わぬことも彼は知っている。 *****  アルスカは隣国メルカのサザンという街の裏通りにある鄙びた宿で友人を待った。その友人とは卒業以来会っていなかったが、ひと月ほど前に来訪を知らせる葉書を出していた。友情を信じるならば、再会を果たすことができるはずだ。  宿の毛布は擦り切れている。井戸の水は赤銅色に濁り、表面に小蠅の死骸が浮いていた。窓の向こうはずっと曇り空であり、時折耐えかねたようにぱらぱらと涙を流す。
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