不義の澱

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 アルスカはこの国で同性の恋人を持つということがどういうことかをよく知っている。同性愛者は教会から破門され、また迫害を受ける。フェクスはこれから、この関係を世間から隠して、さらに異邦人であるアルスカを守らなければならない。東方の難民はいまこの国の治安悪化の直接的な原因である。東方の民であるアルスカへの風当たりは強い。  アルスカの言葉を十分に理解したうえで、フェクスは言った。 「それを、変えたかった」 「……」  アルスカは黙った。フェクスの言葉にはかつての青年時代の熱が戻っていた。アルスカが次の言葉を見つけるより前に、フェクスが続けた。 「いや、いまからでも変えればいい。俺、もう一度行政官から始めようと思う」  アルスカは頷いた。そうなればどんなにいいだろうと思った。アルスカが愛したこの国が、アルスカを受け入れ、愛してくれるなら、それは夢のような話だ。  2人は見つめ合い、ゆっくりとキスをした。それから、照れたように笑った。青年のように夢物語を語り、愛を囁きあうにはお互いに顔に皺が多くなりすぎた。  それでも2人は夢想した。この国の未来と、2人の未来に光があることを。
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