不義の澱

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 ガラ国は乾燥した砂漠の多い国であった。湿った空気を吸い込むと、異国の地にやってきたのだと痛感させられた。  アルスカは酒でも飲んで時間を潰すつもりだったが、この国は戒律により春の三カ月は禁酒と定められていた。酒場であってもこの時期は水と牛乳しか供さない。教会を中心に発展を遂げたこの街は厳格に戒律を尊守しているのだ。  赤毛と碧眼、鷲鼻がこの国に多い顔立ちであり、黒髪黒目で低い鼻をしているアルスカは明らかな異邦人である。それでもこの国の決まりに従うべく、彼は酒を諦めた。  アルスカは手持無沙汰になって窓辺で曇天を眺めながら煙草をふかした。この煙草は非常に強く、大の大人をも陶酔させる。この時期、メルカ国で楽しむことができる唯一の娯楽である。  アルスカもその昔、この国に留学でやって来て初めてこの煙草を吸ったときは、あまりの強さに前後不覚となり憲兵の世話になった。
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