不義の澱

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 当時、夜中にわけのわからないこと叫ぶ者の多くが国賊的思想を持っていたため、アルスカも拘束され、思想調査を受けたのだった。異邦人であり、まだ言語を勉強中だったアルスカは四苦八苦しながら自分に危険思想がないことを数週間かかって説明した。  2、3日ほどそうして窓辺で青春時代の苦い記憶に耽っていると、どんどん煙草は灰になり、とうとう残り1本となってしまった。  アルスカは深いため息を漏らした。彼は酒と煙草以外で退屈を誤魔化す手段をすっかり忘れてしまっていたのだ。  窓の外を通行人が通る。人々はシャツとズボンだけで、自分の目的地へと俯いて足早に駆けていく。  長い戦争で、物資を供出し続けているせいだろうか。街に活気はなく、この街に来るまでに通り過ぎてきた街道沿いの街々に比べて全体的に煤け、古びていた。  しかし、この街を出て東に歩くと、すぐに広大な農地を見ることができる。そこでは農夫たちが農道にしゃがみ込んで呑気に雑談をしているのだから、すべてが戦争一色、というわけではないことをアルスカはすでに知っていた。
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