不義の澱

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 アルスカは最後の煙草を大事に吸った後、所在なく街の地図を広げて眺めた。この街は古くからある田舎の街と、教会の建物が立ち並ぶ比較的新しい街に分かれている。  この宿は古い街の西端に位置し、こちら側には戦火に追われた東方の人々があちこちで下働きをしている。そのため、アルスカと同じ黒髪に黒い目の人間もよく見かけた。彼らはこの国で使われている言葉とは異なる言葉を話す。それはアルスカの故郷の言葉でもある。アルスカも彼らと同じ東方の出身なのだ。  この国の人々の中にはどうせ分からないだろうとアルスカたち東方の民にからかいの言葉を投げつける者もいる。かつてアルスカが学生の頃にそのような暴言を吐かれたら、アルスカはこの国の言葉で何倍にも反駁し相手を黙らせた。アルスカはこの国の大学で4年間言語だけでなくその手の輩に対する処置も学んだのだ。  もっとも、それは彼の故郷が戦火で焼け落ちる前のことであり、いまはアルスカのような東方の民に対する風当たりはさらに強くなっている。  それは、戦争で物資が不足し、人々の心がすさんでいるからだ。
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